うみがめ第14号

生体リズムと健康
―ヒトは朝日を浴びて体内時計をリセットする―

愛泉会日南病院 院長 春山 康久

●概日リズム(Circadian Rhythm)

地球上のあらゆる生物は、24時間を基礎として生活するリズムを持っており、人間にも同様の機構があるといわれます(若村智子)。この背景として地球が24時間の周期で自転しながら太陽の周りを1年かけて公転しているという自然界の法則と、そのような規則性の中で人類は進化しながら地球に生存していることが考えられます。
ヒトの体には概日リズム(睡眠と覚醒、体温や血圧・脈拍の日内変動、ホルモン分泌)、90分周期のリズム(レム睡眠とノンレム睡眠など)、28日周期のリズム(月経)等自然なリズムが存在します。このような生物リズムの中で概(おおむね)1日周期という意味で概日(がいじつ)リズムがあります。語源はラテン語の約(circa)、 “circadian” (約1日)に由来し概日リズム(Circadian Rhythm)と呼ばれております。

●体内時計、生物時計(Circadian Clock 概日時計)

ヒトの睡眠や体温のリズム周期は約25時間で1日より少し長いのですが外部環境の変化が刺激となり、体内時計の位相を前進させて24時間周期にします。体内時計は脳の中にある「主時計」と全身の細胞にある「末梢時計」の2種類があり、その2つのリズムが同調することで正しく1日のリズムが刻まれます。この主時計による末梢時計の同調には、自律神経系が主な働きをしているといわれます。この同調因子として、ほぼすべての生物が光を利用しています。体のリズムを整えるには、朝日を浴びることが不可欠なのです。末梢時計を毎日調整する信号が食事です。起床後1時間以内の食事により末梢時計がリセットされ、主時計のリズムと同調します。朝食を抜くと末梢時計がリセットされず、2つの時計がバラバラに働くのでリズムが乱れ、脂質の代謝異常やホルモンの分泌異常を招きます。最近、体内時計の調節に膵臓から分泌されるインスリンが一役買っており、「糖分の摂取時間を工夫することで、時差ぼけの解消や夜型になりがちな現代人の生活改善に役立つ可能性がある」という新聞記事を見ました。
概日リズムを支配する体内時計の所在として、哺乳類のげっし類(ネズミの類)では視床下部のsuprachiasmatic nuclei(SCN;視交叉上核)が知られています。

●時計遺伝子(Clock Gene)

体内時計の調整に重要な役割を果たしているのが時計遺伝子と呼ばれるもので体の細胞一つひとつに存在し、環境サイクルの長さに似た周期で自律的に振動し、種々の生理機能に作用して概リズムを発現させる働きをもっています。これまで体内時計の刻みを促進する因子(時計転写因子)としてBmal、Clockの2つの時計遺伝子群が、また抑制する因子(時計抑制因子)としてCryとPeriodの2つの時計遺伝子群が発見されました。2014年理研の研究グループは概日リズムを示す新規遺伝子としてGm129を発見し「Chrono(クロノ)」と名付けられました。最後の時計遺伝子といわれています。
昼夜、明かりが絶えることのない不夜城と化した現代社会において、夜間労働や時差ぼけに伴う体内時計の異常は睡眠障害のみならず多くの現代病の根源であると考えられています。1日の身体のリズムを作るには、朝の光を浴びて「主時計」をリセットし、朝ご飯を食べて「末梢時計」をリセットすることが重要と思われます。

(参考文献)

  1. 生体リズムと健康 若村智子 丸善株式会社 平成20年
  2. 「時間栄養学」 香川靖雄、女子栄養大学出版部 2009
  3. 「最後の時計遺伝子見つかる」 理化学研究所 2014年4月16日

うみがめ14号(PDFファイル)

  1. 院長コラム
  2. 療育活動報告
  3. 2病棟紹介

2015.01.16

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