うみがめ第10号

うみがめ第10号

「夢を抱き、夢を追い続ける二人の男のお話」 院長 春山 康久

【蒲島 郁夫】 夢を信じ、一歩を踏み出した人であり、プロフィールが画期的であります。東京大学教授就任時には「農協職員から東大法学部教授に」とマスコミをにぎわせた方です。
1947年熊本県生まれ。熊本県立鹿本高校卒業、高校時代は二百三十人中、二百番台の大変な落ちこぼれ。小説家、牧場経営、政治家を目指す。農協勤務などを経て21歳で農業研修生として渡米。この時の生活ぶりを氏は農奴と評されています。3年間の研修を終え帰国。24歳、再渡米、ネブラスカ大学農学部に入学、豚の精子の保存方法を研究。卒業後、政治家を目指しハーバード大学大学院博士課程(政治経済学専攻)に入学、1979年に同博士号を取得。帰国後、33歳で筑波大学社会工学系教授、50歳で東京大学法学部教授。61歳、熊本県知事、現在2期目として活躍中です。先日、蒲島知事の講演を拝聴する機会がありました。

講演の中で蒲島知事は、夢を持って、一歩踏み出すこと。夢を持っただけでは化学反応は起きないこと。夢に向かって一歩踏み出すこと。人生の可能性を信じて、逆境をポジティブに捉え、与えられた舞台の期待値を越えていけば、やりたいことの大概は実現できることを説かれました。自ら夢を抱き、一歩を踏み出し、夢を実現させた人の講演は力強く説得力のあるものでした。最後に知事がメッセージとして述べられたことは以下の通りです。①人生の可能性は無限大である。②逆境は将来の夢である。③夢を持って、一歩踏み出す。④120%努力する。結果としてFull setのDNAがSwitch onされる。

(参考)「逆境の中にこそ夢がある」 蒲島郁夫 講談社

【三浦 雄一郎】 世界最年長80歳で世界最高峰8,848mのエベレスト登頂に成功されたことは記憶に新しい所です。先日、三浦雄一郎氏のドキュメントドラマがNHKのテレビで放送されましたが、三浦氏の身体能力に関するもので興味深く拝見しました。
雄一郎氏の脳をMRIで診断すると萎縮が少なく、実年齢より15歳近く若い状態であったそうです。その要因は1日6,000歩以上歩く事、エベレスト登山の時も本を持参する位の読書家であり、本をたくさん読むことも脳前頭葉の萎縮が抑えられているとのことです。さらに、氏は人生の目標の明確さが突出しており、家族との関係や人生観を探るため200問を超える心理調査をおこないましたが、これまで調査した1万6千人の中で最高点であったそうです。健康長寿のためには生きる希望や目標を持ってトレーニングを行えばいくつになっても筋肉が鍛えられること、さらに自分の夢を自身に問いかけることが重要であるそうです。(下方浩史先生 国立長寿医療研究センター)
雄一郎氏の二男・豪太氏は自らも登山家であり、高所登山家の生理学を研究されております。低酸素環境下における遺伝子発現についての研究で、HO-1(ヘムオキシゲナーゼ)は高所において生体を守る抗酸化作用、酸素をより取り込みやすいように血管拡張作用を持ちますが、雄一郎氏のような高所登山家にはHO-1が通常の6倍以上含まれ、HO-1が高所では生体を防御している可能性があるそうです。(Gota Miura BBRC 2011)
また最近ではテロメア(Telomere)の研究が進行中です。古来より歌に歌われているように、「生きとし生けるもの」は必ず死を迎えるのが世の常とされています。人は生命を維持、保存するために細胞が分裂を繰り返しておりますが、この細胞が分裂する時にDNAの分解や修復から染色体を保護し遺伝的な安定性の役割をしているものがテロメアと呼ばれているものです。このテロメアは細胞分裂を繰り返すと少しずつ短くなり、完全になくなると細胞分裂を止め、細胞老化を起こし機能を停止すると言われております。そのためテロメアは寿命の重要なバイオマーカーであり、細胞の回数券と呼ばれています。テロメア短縮による細胞の老化が、個体の老化の原因となることが示唆されています。
現在、三浦豪太氏の研究グループはテロメアと高所の関係に注目して、80歳の三浦雄一郎氏や豪太氏本人のエベレストに登る過程でテロメアの変化をモニターし、高所という環境下における酸素と老化の関係を調べています。実験結果が待たれる所ですが三浦雄一郎氏のテロメアは短縮することなく、若い細胞が分裂を繰り返していることでしょう。
人間、年齢を重ねるとアンチエイジングなど老化現象を遅らせることは出来ても、老化は避けらないと思われています。今回、二人の人間の生きざまを知り、人間には老化以外に成熟または、進歩(進化)という生き方もあることをつくづく感じさせられました。

うみがめ第10号(PDFファイル)

  1. 院長挨拶
  2. 新人職員紹介
  3. 療育活動報告
  4. 作品寄贈によせて 等

2013.07.01

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